2024.9.13

教員を目指していた私が「起業家になりたい!」と思った授業とは?

坂口貴哉
教員を目指していた私が「起業家になりたい!」と思った授業とは?

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中学時代から教員を目指していた鳥取大学地域学部の学生・坂口貴哉さんは、大学での活動を通じて、起業家という新たな夢を見つけます。このテキストは、起業家になりたいと思うきっかけになったマーケティングの授業の様子と、自身の心の変化を描いたエッセイです。

 

大学との出会い、キクラゲとの出会い

私は中学生の頃から中学校社会科教員になりたいと思っていた。中学2年の時に、あらゆる面で伸び悩んでいた私を救い出してくれた恩師の存在がきっかけだ。だが、大学受験を目の前にしたとき、「本当になりたいのは教員なのか?」と考えるようになった。私自身は小さい頃から企画やイベント、人に喜んでもらえることを考えるのが好きで、さまざまな活動をしてきた。将来、そのような仕事にも就きたいという思いがどこかにあった。「教員になりたい“わたし”」と「好きなことを仕事にしたい“わたし”」がぶつかり合っていた。そんな時に鳥取大学地域学部地域創造コースと出会った。教員という夢を目指しながらも、好きなことをするための経験を積むことができる。出会った瞬間に衝撃が走った感覚になった。ぶつかり合っていた“わたし”を調和することができる場所だと思い、受験し、私は鳥取大学に入学した。

1年後期に開講される基礎ゼミはいくつかのグループに分かれる。私は白石秀壽先生のグループに所属することになった。何をするのかわからないまま、第1回目の講義の開催場所である八頭町の「隼Lab.」へ足を運んだ。この段階では「隼について学習するのか?」とも思っていた。講義は、株式会社ダブルノットの高林努さんよりお話をしていただいた。高林さんから知らされた講義内容は「鳥取県でキクラゲを生産する株式会社緑工房の、キクラゲ栽培キットのリニューアルを考えること」であった。いわゆるマーケティング、商品開発である。このような経験は大学生ではなかなかできないので、率直にワクワクするような気持ちになった。だが、「キクラゲ……?」という思いも同時に湧いた。実際にキクラゲ栽培キットで育ったキクラゲを試食させていただいた。私の知っているキクラゲはラーメンの引き立て役のイメージがあり、実際に食べてみても味はなく、食感そのものを楽しむものだと感じた。第1回目の講義では目標が与えられた。「キクラゲ栽培キット 3年で年商1000万円」。ほとんど知らない、脇役の食材の栽培キットをマーケティングする、とてもワクワクするような思いになった。

 

キクラゲ栽培キットのマーケティング

マーケティングを行う前には基礎学習を行なった。マーケティングに関する本を読み、学生自身がレジュメを作成し、他の学生にわかりやすく伝えるというものである。学生同士で説明し合うことにより、どこが分かりづらいのか、どこを重点的に説明しないといけないのかが分かり、お互いに知識を高め合うことができた。また、必要に応じて先生が細かく解説を行ってくださり、確実な知識を構築することができた。ここで学習したことは「マーケティングにはどのような場があるのか」という大きなテーマから、価格の設定方法や商品を選んでもらうための方法のような細かなテーマなど、幅広いものであった。

さらに実際にマーケティングの世界で活動されている高林さんにも講義をしていただいた。競合比較、ターゲット選定、自己分析など、今やろうとしていることは何故やる必要があるのか、その背景や実例をもとに知ることができた。
また、各自気になる点をスライドにまとめ発表することを行なった。気になる点は人それぞれであり、「緑工房とは?」「キクラゲとは?」「他社の製品はどのようなものなのか?」などの発表があった。これによって、全員で共通の認識を持ってマーケティングを行なっていくことができる。

基礎知識を学習したうえで、私たちは実際に「キクラゲ栽培キット 3年で年商1000万円」という目標を達成するために動き始めた。活動は2つの班に分かれ、2ヶ月先の企画発表に向けて取り組んだ。まずは株式会社緑工房の工場を見学させていただいた。また、社長にもお話をお伺いした。そこで知ることができたのは、緑工房はキクラゲ栽培キットに重きを置いているのではないということである。緑工房は、長崎ちゃんぽんラーメン専門店のリンガーハットで使用されるキクラゲなど、キクラゲという商品に重きを置いていた。そして、キクラゲ栽培キットが売れ過ぎてしまうと、緑工房全体の売り上げが下がってしまうという。

私たちの班は現地のヒヤリングを通して知った事実を元に、「3年で年商500万円」が最大の数字だと考えた。また、「美容・健康に良い」「栽培キットを栽培する余裕のある年齢層」「SNSをよく見る年齢層」などの理由から「40代女性(都会住み、独身)」というターゲットを定めて企画を進めた。年末年始にオンライン会議なども行い、班員で手分けしながら、中間発表へ向けて準備を進めた。

そして迎えた中間発表、講評は「本当にそのターゲットが購入するだろうか?」。その後、班員で話し合い、このターゲットは適切ではないかもしれないという結論に至った。最終発表が2週間後に迫っていたため、ターゲットを変更するのは非常に悩んだ。だが、自分たちが納得のいくものを発表したいという思いがあり、「70代女性(専業主婦、田畑未所持)」というターゲットの変更に踏み切った。2週間後に迫った最終発表へ向けて、班員の思いがさらに一つになったように感じた。

商品を買ってもらうには名前のインパクトが大切だ。最終的に決定した商品名は「キクラゲハウス」。本来はパッケージの作成だけで良かったところを、より購入してもらえる商品を目指すために商品名も作成した。マーケティングの模擬体験ではあるが、日を追うごとにみんなの本気度が向上していった。

最終発表には、緑工房の社長とダブルノットの高林さんにお越しいただいた。2ヶ月間の集大成であるため非常に緊張したが、無事、自分たちで納得するものを発表することができた。講評では「中間発表でターゲットを変えることができたのがよかった」という意見をいただき、自分たちの選択が間違っていなかったと感じることができた。

 

一度だけの自分の人生だから、思うようにやろう

このマーケティングの授業の体験は、「教員になりたい“わたし”」と「好きなことを仕事にしたい“わたし”」の間で揺れていた“わたし”自身に変化をくれた。自分の好きなこと得意なことを軸にして起業をしたい、起業家になりたいという思いを持つようになった。今までの人生で「起業家」という人になりたいと思ったことは一度もなかった。失敗したら怖そうといったイメージがあったが、実際に起業家の方とお話をすることによって不可能ではないと感じるようになった。安定した収入や生活はもちろん大切であるが、そこを意識し過ぎて自分の気持ちを抑えてしまうのは勿体無い。「一度だけの自分の人生だから、自分が思うようにやろう」。基礎ゼミを受講する前の“わたし”からは想像できないほど大きな変化だ。

とはいえ、この記事を書いている現在(2024年7月)で、起業家という将来の夢が毎日揺れ動いている。日々の中で起きる出来事、出会う人々、自分自身との対話……。将来の夢が定まらないことをマイナスなことだと捉えてしまいそうになるが、そのたびに中学時代の恩師からいただいた言葉を思い出すようにしている。「そんな風に悩むのが大学生の大切な時間。仕事に就くことがゴールではない。そこからがスタート」。 きっとこの悩みは私自身を大きくしてくれる成長痛のようなものだと思っている。悩むだけ悩んで、いつか“わたし”なりの答えを見つけられればいい。そう思って、これからの大学生活を送っていけたらと思う。

 

坂口貴哉 / Takaya Sakaguchi
兵庫県神戸市出身。地域創造コースに2023年度入学。プロ野球チーム「オリックスバファローズ」や、音楽バンド「back number」の熱狂的なファン。現在は、鳥取のサッカーチーム「ガイナーレ鳥取」も応援している。今までに出会った人、これから出会う人との縁を大切にすることが人生のモットー。

*この記事は、鳥取大学地域学部地域創造コース1年次必修科目「基礎ゼミ」(白石秀壽先生、2023年度)での活動を基にしています。なお本授業は、鳥取大学ミッション実現事業 令和5年度 地域イノベーション創出に向けた実践的教育研究推進プログラム・地域実践型学生教育授業の支援を受けたものです。

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