2025.1.30
先輩に会いに行くvol.2 地域を活かす保育とは?

特集
鳥取大学の卒業生に、現役の学生が会いに行くシリーズ「先輩に会いに行く」。今回の先輩は、智頭町立ちづ保育園で保育士として活躍する藤田裕之さんです。保育士を目指す松田若菜さん・山根圭央さんが藤田さんを訪ねて聞いた、保育現場の実情や地域資源を活用した独自の保育法、学生たちへの熱いエールをご紹介します。
鳥取県八頭郡智頭町にある智頭町立ちづ保育園で働いていらっしゃる藤田裕之さんにインタビューをしました。藤田さんは鳥取大学の塩野谷斉研究室の先輩で、後輩である私たちに現場での経験を活かしたユニークな保育の授業をしてくださっています。鳥取市で保育士になろうと思っている私たちは、藤田さんがなぜ保育士になったのか、保育士になってからも様々なことに挑戦される原動力はなにか、お話を伺うことにしました。
松田:まず、保育士になろうと思ったきっかけを教えてください。
藤田:地域学部に以前あった地域環境学科で最初は理科の教員免許取得のために授業を受けていたのですが、幼稚園の免許も取ろうかなって思ったのが始まりでした。実際、幼稚園の授業を取っていったら、楽しくなってきて。理科離れって言葉きいたことありますか?子どもたちが理科を苦手に感じる理由について考え始めたことで、幼児教育において、どうすれば子どもたちが理科や実験を好きになれるのかを調べるようになったことがきっかけです。私は理系出身ですが、幼児教育の授業を履修していると「君は何を目指しているの?」とよく聞かれることがありましたね。
山根:藤田さんは、現役の保育士として「子どもの理解と援助」という科目の授業を私たちにしてくださいました。授業では、連絡帳の書き方の演習だったり、保護者役と保育者役に分かれて保護者対応の演習などをしました。大学の授業を担当するようになった経緯はなんだったんですか?
藤田:大学時代にお世話になった塩野谷先生に「良い経験になるからやってみないか」と声をかけていただきました。自分は、教えられるような器じゃないかなと思っていたのですが、勉強だとおもって、授業を担当させていただきました。本当に塩野谷先生に良い機会をいただいたと思っています。保育士をやって12〜3年経った頃で、色んな保護者さんに出会って私自身も育てていただきました。その経験を踏まえた授業ができたので、イメージしやすい話ができたかなと自分では思っています。
松田:藤田さんの授業ではカードゲームを使うのが印象的です。私たちは「ito」(イト)というカードゲームをやりましたね。数字を手がかりにお互いのイメージを表現するゲームですが、互いに価値観が違うのでなかなかうまくいかないし、そこがとても盛り上がります。カードゲームを授業に取り入れたのはなぜですか?
藤田:私は長時間座っているのが苦手で……学生の時に、90分ずっと座っているのが苦痛だったので、頭ほぐしじゃないけど、そういう目的でカードゲームができたら、学生さんも楽しめるし「良い雰囲気になるんじゃないかな」というのが最初の始まりでした。それで「ito」っていうカードゲームはお互いの価値観の違いに気づくゲームですが、それは保護者支援の話と嚙み合っていて、捉え方とか常識とか十人十色な部分があることを、カードゲームで楽しみながら気づくことができるというのがあるんですね。「はじめまして」の相手と雑談をしても絶対会話は途切れるけど、楽しみながらコミュニケーションを取れるカードゲームは、互いが親近感を抱けるツールになるんじゃないかと思って始めました。カードゲーム様様ですね!
山根:すごく楽しかったです!最初は、ただカードゲームを楽しんでいた部分もあったんですけど、友達と自分の価値観や考え方の違いに気づくことができて、カードゲームを通じて楽しく学ぶことができたと思っています。ところで、ちづ保育園ならではの保育ってありますか?
藤田:地域を大切にしているところですね。地域資源っていうのが自分の最近のテーマで、ちづ保育園でも地域資源を活用した保育を展開していこうっていう取り組みがあります。例えば、智頭中学校のスロープに0〜1歳の子どもが遊びに行ったりとかね。園内だと階段とかないから、そういった地域資源を使うっていうのもひとつです。他にも、毎年「来んさい!見んさい!踊りん祭!!」「かんがえ地蔵まつり」などの地域のお祭りがあって、そこで、子ども達が鳴子を持ってよさこい踊りをするのですが、「年長さんになったらよさこい踊りを踊って、大きなステージに立つんだ」っていうずっと続く伝統みたいなのがあって、実際にお祭りという地域の場をお借りして、子ども達は自信をもって披露しています。地域の方もお祭りを見に来て、「子どもたちの賑やかな表情やうれしそうな姿から元気もらえた」っていう意見をもらいます。なので、保育園と地域の方がwin-winな関係になるような地域資源の活用がすごく大事だな、と思っています。全国的に地方の過疎化が問題となっていますよね。大きくなった時に故郷を大事に思う気持ちだとか、「子どもの頃にここにいて楽しかった」っていう気持ちって大事だと思うんですよね。
松田:これからも保育士として働いていきますか?
藤田:そうですね。保育士として現場で働きながらも、ゆくゆくは学会に入って、見えてきたことをまとめたいなって考えています。今では塩野谷先生や他の大学の先生と一緒に研究で本を出したりしています(※1)。
山根・松田:すごい!保育士としてだけでなく、本を出したり学会を目指したり、活発ですね。
藤田:本当に塩野谷先生のおかげです。声をかけられなかったらこんな経験はできませんでしたし。私は子どもや保護者さんと関わりながら学んでいく方があってるので、保育士を続けながら、研究も広げていきたいです。
山根:やってみようという気持ちになれるのはなぜですか?
藤田:挑戦できる機会って大切だと思うんです。チャンスだって思ったときに、掴んでおけば、あとは自分の努力である程度、何とかなるって考えています。
松田:保育士になる私たちにアドバイスをお願いします。
藤田:まず、「子どもと一緒に遊ぶのを楽しんでほしい」というのがすごくあります。働きだしたら、新しい仕事も覚えないといけないし、それぞれの園のルールややり方とかもあって、それに慣れていくことにいっぱいいっぱいになってくると思います。でも、子どもたちとしっかり遊ぶと、子どもたちとの関係ができて、信頼してくれて、そこからクラス運営がやりやすくなったり、保護者さんからの信頼をいただけたりすることに繋がって……子どもたちと一緒に遊ぶってとっても大切です。子どもたちが「保育園、楽しい!」って思えるようになってもらえるのが一番だから、目の前の子供達と向き合って楽しく遊ぶことが一番大切かなって思います。
※1
塩野谷斉編著、藤田裕之・市川智之・薮田弘美・寺田光成・居原田洋子著『保育における地域環境活用の意義と実践』古今社、2023年
(藤田さんの担当は「第2章 地域は子どもの豊かな遊び場~ドキドキ・ワクワクの園外保育~」)
塩野谷斉編著『保育内容「人間関係」 理論から実践まで』講談社、2024年
(藤田さんの担当は「第11章 保育における地域社会との関わり」)
藤田裕之 / Hiroyuki Fujita
鳥取大学地域学部地域環境学科を卒業。鳥取大学大学院地域学研究科修了。
現在は智頭町立ちづ保育園で保育士として勤務している。
松田若菜 / Wakana Matuda
鳥取大学地域学部地域学科人間形成コース4年。鳥取市出身。
卒業後は鳥取市の保育士として働いていきたい。
好きなキャラクターはミッフィー。趣味はガチャガチャをすること。
山根圭央 / Kao Yamane
鳥取大学地域学部地域学科人間形成コース4年。鳥取市出身。
卒業後は鳥取市の保育士として働いていきたい。
好きな色はむらさき。趣味はYouTubeを見ること。