2025.12.19

自分は何者なのか——答えを探して徳島県神山町へ

山本豪
自分は何者なのか——答えを探して徳島県神山町へ

FEATURE特集

将来が見えないまま立ち止まっていた大学院生が、徳島県神山町「神山つなぐ公社」を訪れた際の出会いを通して「自分は何者なのか」という問いに向き合う。鳥取大学大学院 持続性社会創生科学研究科 地域学専攻 人間形成コースの山本豪さんが、迷いと行動のあいだで揺れるリアルな心情と、背中を押された言葉を綴ります。

 

立ち止まっていた大学院生活に、神山への誘い
中学生の時は警察官になりたかった。理由は刑事ドラマを見るのが好きだったから。
高校生の時は高校の先生になりたかった。理由は野球部の顧問になりたかったから。

大学院生になった今将来の夢はない。今の自分は何者なのか。何をして生きていきたいのか。大学の同期たちは次々に就職していき、毎日懸命に働いている。対する私はやってくる日々を流されるままに過ごす毎日。このままでいいのかと日々漠然と考えるばかりで行動に移すことはできずに気づけば迫ってくる卒業。そんな不安を日々抱えながらも、一歩踏み出す勇気を出せず燻っていた私に衝撃を与えたのが「一般社団法人 神山つなぐ公社」の梅田學さんとの出会いだった。

梅田さんは、私がティーチング・アシスタントをしていた「地域学総説」(2025年度)という授業にゲストとして登壇した。話を聞いてまず衝撃を受けたのは、複数回の転職経験と、その幅広さだった。大学卒業後、ウェディングプランナー、広告、人材紹介などを渡り歩き、さらに日本だけでなく海外、インドでも活動されていたという。踏み出す勇気が持てなかった私にとって、その生き方は強い刺激となった。

現在、梅田さんは徳島県神山町にある「神山つなぐ公社」で教育担当をされている。城西高校神山校で、生徒が地域をフィールドに学ぶ授業「神山創造学」のコーディネートを行い、生徒のフィードバックを受けながら生徒が地域を学びのフィールドとする仕組みを改善し続けている。その現状に満足しない姿勢にも私は深く感銘を受けた。

講義後、改めて話を伺っていると、同席していた地域学部の村田周祐先生から「神山に行ってみたら?」と提案を受けた。村田先生曰く、その時の私は普段見ないほど楽しそうだったらしい。また、私が研究室に所属している石山雄貴先生が神山町を調査地としていたこともあり、先生方のサポートのおかげで、実際に訪問する機会につながった。

 

“動け”という言葉に背中を押されて

2025年9月10日から12日まで、私は神山町に滞在した。はじめに「神山つなぐ公社」のオフィスにて梅田さんにインタビューを行った。インタビューでは、梅田さん自身のこと、神山町での活動など、地域学総説の内容をもとにした疑問などを聞く予定でいた。しかし、お話を聞くうちに気が付けば、冒頭で述べた私自身の悩み、「自分は何者なのか」という答えようのない無責任な問いを投げかけていた。新たな環境に一歩踏み出す勇気が持てない自分にとって、転職を繰り返しながら精力的に活動を続けている梅田さんは羨ましくも見えた。梅田さんに私の悩みをさらけ出してみようと思えたのだ。

それに対する梅田さんの返答は「悩んでいる時こそ動け」というものだった。人生の時間軸を見るとずっと幸せの絶頂の人間などいるはずもなく、波が上がれば下がっていくこともある。だから悩んでいる時こそ動く、今やるべきことを一生懸命やる。その重要性を教えていただいた。「悩んでいる時こそ動け」という言葉は、私の中の迷いを小さくした。

梅田學さん(左)と兼村雅彦さん(右)

次に、梅田さんと同じ「神山つなぐ公社」のメンバーである兼村雅彦さんにお話しを伺った。兼村さんは、「神山つなぐ公社」の活動のひとつである城西高校神山校の寮「あゆハウス」のハウスマスターをされている。兼村さんも梅田さんと同様、様々な活動の末に神山に行き着いたという。

私は、兼村さんへも同様に「自分は何者なのか」という問いを投げかけた。兼村さんの返答は「様々な他者との関わりによって、自分は何者なのか理解できるのではないか」というものであった。つまりは「繋がりの重要性」である。兼村さん自身も、就職が決まらないままでの大学卒業を経験しており、当時はあまり深く考えず見ないふりをしていたという。しかし、社会に出てからの様々な人たちとの関わりを通して、現在の自己を獲得していったのだという。

また、「自分はこうなのだと固定観念に囚われて変に悩まないほうが良い」とのアドバイスもいただくことができた。悩むと塞ぎ込んでしまい、他者との関わりを絶ってきた私にとって、悩んでいる時こそ他者との関わりを持つべきという兼村さんのアドバイスは目から鱗であった。兼村さんへのインタビューを通して、私は、他者との関わりの中で少しずつ自分自身の姿が形づくられていると気づいた。

 

若い世代との出会いで再確認したつながりの力

私は神山滞在中に、梅田さんと兼村さんから紹介を受けて、もうひとりへのインタビューを行った。「あゆハウス」のもう一人のハウスマスターである中村奏太さんだ。

中村奏太さん

梅田さんと兼村さん同様、徳島県外の出身であったが、縁あって神山町と出会い、インターンを経て「神山つなぐ公社」に入社している中村さんは私より5つも年下だ。年齢がどうというのは古い考えなのかもしれないが、こんなに若いのに精力的に活動している事実に、改めて燻っている自分に喝を入れられた気がした。中村さん自身も「神山つなぐ公社」の人たちの仕事に対する情熱に感銘を受け、自身もその環境に身を置いてみたいと考えるようになったそうである。

神山つなぐ公社の人たちに感銘を受け実際に移住した中村さん、その中村さんに感銘を受ける私の存在。これもまた「つながりの重要性」を感じられる出来事であった。
すべてのインタビューを終えたのち、次々と「あゆハウス」に帰宅してくる寮生と交流することができた。

「将来の夢はありますか?」

それぞれに問いかけてみると、皆が明確なビジョンを持っており、夢に向かって勉強をしたり、アルバイトをしたりしていた。ただ夢を語るだけではなく、実現に向けてとにかく走る、梅田さんのおっしゃっていた「悩んでいる時こそ動く」姿勢がここには満ち溢れている。

 

再び問いかける——自分は何者なのか

今回の神山町での調査を経て、これまでの自身の不甲斐なさを改めて感じた一方で、私は新たな目標を見つけることができた。心の片隅に抱えながらも一歩踏み出すことのできなかった、気づかないふりをしていた夢に向けてとにかく走りだしてみることとする。

最後に、私と同様に「自分は何者なのか」と漠然とした不安を抱えている若者へ偉そうに言わせてもらおう。焦って答えを出す必要はない。けれど、立ち止まりすぎても見えないものがある。

——走れ。

 

*この記事は、鳥取大学地域学部必修科目「2025年度・地域学総説(あわいの場を編む)」での学びを基にしています」

山本豪 / Go Yamamoto

愛知県出身。鳥取大学大学院 持続性社会創生科学研究科 地域学専攻 人間形成コースに所属。サウナ好きだがインドア派、野球を10年していたが趣味はサッカー観戦、空港は好きだが飛行機に乗るのは嫌い、とすべてにおいてどっちつかずの人間。

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