2025.3.19
湯梨浜町橋津・歳の差平均60歳の友達と過ごす「公民館の日」って?

特集
大学生活の楽しみが「公民館通い」だなんて、ちょっと意外? 鳥取大学の佐々木里桜さんは、70代から90代の地域の大先輩たちと毎週木曜日を過ごしています。研究でもボランティアでもない「公民館の日」の魅力とは? 彼女が見つけた特別な時間を紹介します。
鳥取県外出身者が8割を占める鳥取大学。多くの下宿生がキャンパス周辺に生活の拠点を置いている。愛知県出身の私は大学近くの下宿先を選べたものの、大学から約50キロ離れた鳥取県東伯郡湯梨浜町のとある海沿いの集落で大学生活を送っている。これは、私が湯梨浜町での暮らしの中で紡いできた日々から見つけた出会いの記録である。
私は、2022年の大学入学以来、3年間続けていることがある。それは、毎週木曜日に鳥取県東伯郡湯梨浜町橋津にある橋津地区公民館に通うこと。私はこれを「公民館の日」と勝手に定め、毎週の楽しみにしている。
この記事を読んでいるあなた。おそらく「なんで公民館?」と思ったのではないだろうか。大学生といえば研究、アルバイト、サークル活動などのイメージを抱くかもしれない。私も大学生になるまではそう思っていた。しかし、私の場合、公民館に行くことが何よりも楽しいのだ。
では、私は公民館で何をしているのか。
橋津地区公民館では、毎週木曜日に橋津区自治会が『馬ノ山サロン』を開催している。「馬ノ山サロン」とは、地域のみんなでおしゃべりをして楽しく時間を過ごそうという集まりのこと。私はこれに参加するために毎週木曜日に足しげく公民館へ通っているのだ。
平日ゆえに集まる人数は5〜10人程度。年齢層は70代から90代の人生の大先輩たち。私が公民館に行き始めた当初は「なぜ、こんなところに大学生がいるんだろうか?」と好奇の目で見られたし、「大学の研究か何かで来ているのか」と尋ねられることもあった。
ちなみに、私が公民館に通い始めたのは、大学の研究やボランティア活動のためではない。しいて言えば、私の脳内にある好奇心センサーが橋津地区公民館を感知したからだ。愛知で過ごした18年間をふりかえると、私は学校の場以外に社会と接続する場をあまり持ってこなかった。大学生になったことをきっかけに自分の行動範囲を大きく持ち、様々なバックグラウンドを持った人たちと関わることで自身のバイアスを無くしていきたいと考えていた矢先、たまたま馬ノ山サロンの存在を知った。私にとって公民館は未知の場所。大学にはいないであろう属性の人たちに出会えるチャンスだと思った。
「馬ノ山サロン」の時間は10時から12時。故に私の「公民館の日」のスケジュールも10時から12時だ。「公民館の日」を続けて早4年。大学の友達よりも、公民館で出会い友達になった人の方が多い。いや、圧倒的に多い。歳の差平均60歳の友達ではあるが、その差を感じないほど気が合う愉快な人ばかり。
ただし、みんな耳が遠いため、おしゃべりするときは腹から声を出すのが鉄則だ。故に、内緒話をしようものなら、その話は絶対に内緒にはならない。
公民館の日に集まる友達の中でも毎回欠かさず来る皆勤賞のレギュラーメンバーが存在する。それでは紹介しよう。
橋津の生き字引 みどりさん
最高齢は93歳。橋津の生き字引ことみどりさんだ。みどりさんはだれよりも先に公民館に着き、みんなを待ち構える。私が公民館に着くとニコニコの笑顔で「あら、りおちゃん、おはよう。待ってたよ。」と出迎えてくれる。私はみどりさんのこの笑顔が大好きだ。
そして、「はい、これ。家にいっぱいあるの。私は食べないからあげる。」と言ってビニール袋にたくさん入った何種類ものアメやお菓子をくれる。みどりさんは甘いものが苦手だ。しかし、会うたびにお菓子を持ってきてくれる。どこに行ったらこんな見たこともない奇抜な色をしたアメが売っているのかと毎度不思議に思うが、あえてそこはツッコまず、ゾクゾクしながらアメを味わっている。

みどりさん
おしゃれ番長 こにしさん
真っ白できれいな髪の毛がトレードマークの小西さんはとてもおしゃれな方だ。ある時は上下ヒョウ柄の服を、またある時は青いジャージをカッコよく着こなしてくる。ブルべやイエベが服選びの判断基準になっているZ世代に、この着こなしを学んでほしいと常々思う。私は「好きな服を着ていいんだ!」というメッセージを小西さんのファッションから勝手に受け取り、自分のファッションの指針となっている。
おしゃべり大好き まさえさん
90歳にして原付バイクを乗りこなすまさえさん。私も同じく原付バイクを乗り回しているため、まさえさんは湯梨浜町の数少ないバイク仲間だ。
「りおちゃんのバイクがあったけ顔出してみた」と公民館に顔を出してくれる。2時間楽しくおしゃべりして「今日は雨降ってたけ来るか迷ったけど、まぁ家に居たって黙ってなんもせんからな、今日来てよかったわ。」と、これまたうれしい言葉を残して帰っていく。

まさえさん
ひょうきん者 てっちん
てっちんはダジャレをこよなく愛するひょうきん者。いつも左手に微糖の缶コーヒーを携えて、公民館にひょっこり現れる。しかもこのコーヒーは、自動販売機で買う微糖の缶コーヒーというこだわりがある。「自販機はお高いし、微糖じゃなくて無糖にしなよ」と注意するのがあいさつ代わりだ。
そんなてっちんだが、もう一つの顔がある。それは居合道の達人という顔。73歳にして今もなお現役で、微糖の缶コーヒーを刀に持ち変えると、顔つきは一瞬にして変わり、ひょうきん者から侍となる。そのギャップがなんともたまらないのだ。

てっちん
その他にも公民館に集まるのは魅力的な人ばかり。「おはよう。ほいっ。温泉の割引チケットあげるわ。わしは忙しいけ、これで失礼するわ」と、はわい温泉の割引チケットだけくれて、さっそうと帰っていくとにかく多忙なながみさん。「パン屋さんか!」と思うくらいのクオリティのパンや、むかごおにぎりを作り、「ほい、おやつだよ」と持ってきてくれるひらた夫妻など、とにかく魅力的でツッコまずにはいられない橋津の人たち。
みんなしゃべりたいことを好きなだけしゃべり、次の木曜日も誰も欠けることなく元気に集まれるよう約束し、12時に鳴る防災行政無線のチャイムとともに帰っていく。これが私の「公民館の日」の全貌である。
私の好奇心センサーは間違っていなかった。
ここに集まる人も空間も最高におもしろい。木曜日は大好きな橋津の人たちに会える時間。公民館は社会と接続でき、価値観にはグラデーションがあると気づきを得られる場所。そして、この何とも言えないゆるくつながった橋津の人たちとの関係性は、同じ時間をともに過ごすことのおもしろさを教えてくれる。私にとって「公民館の日」とは、ワクワクにあふれた日なのだ。
さあ、次の木曜日はだれに会えるだろう。どんな話ができるだろう。
私の「公民館の日」はまだまだ続く。