2026.4.21

日常の「面白いこと」ってなんだろう?──鳥取大学・小笠原拓ゼミ「腸感冒は方言です!?(仮)」ライター4人に聞く

わたし|ワンダー編集部
日常の「面白いこと」ってなんだろう?──鳥取大学・小笠原拓ゼミ「腸感冒は方言です!?(仮)」ライター4人に聞く

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鳥取大学地域学部・小笠原 拓ゼミを中心に運営されているウェブサイト「腸感冒は方言です!?(仮)」(以下、腸感冒)は、2015年から続く、ちょっと不思議なブログだ。「担当教員の趣味なのかもしれませんが、必要以上に記事作成者がふざけることを求められています。したがって、あんまり真面目な情報はありません」とサイト自らが宣言するこの場所で、記事を更新し続けた4人の学生ライターがいる。深田真由さん、松本望佑さん、戸田夏実さん、中林由芙さんの4人に話を聞いた。

 

「なんやこれ?」──腸感冒との出会い

4人はみな同学年で、昨年ゼミに配属されてからこのサイトに関わるようになった。それぞれの「出会い」はすこしずつ違う。

 

── このサイトに関わることになったきっかけを、それぞれ教えてもらえますか。初めて知ったときどう思いましたか?

松本:最初に見た小笠原先生の記事が、「学校内を深夜に徘徊してみた」とか「夜一人でアニメを見ました」とかそういうのを書かれていて。なんやこれ?って思って、なんか面白いなと。そこからちょくちょくサイトを見るようになって、こういうゼミ活動があるんだと思って、小笠原ゼミに行きたいなっていうのはありました。

中林:私も松本さんと一緒に小笠原先生の記事を読みました。「ゼミってこんな感じでもいいんだ」みたいな、「こんなことやばいね」って思って、研究室に入りました。

左から、中林由芙さん、松本望佑さん

松本さんと中林さんはともにブログを見て小笠原ゼミを選んだ。一方、戸田さんのきっかけはすこし異なる。

 

戸田:私はもともと小笠原先生のところに行きたいなとずっと思っていて、国語教育をしっかりできるっていうので鳥取大学に来ました。腸感冒はその時は見てなかったですね。行ってみたらこういうブログもやることになった、という感じです。

深田:私はいろいろ他のゼミとかも迷っていたのですが、小笠原先生の授業を受けた時に「実はこういうサイトをやってます」みたいな紹介がちょっとだけあって、こっちの方がちょっと面白そうかなっていうのもあり、入った感じですかね。

左から、深田真由さん、戸田夏実さん

そんなふうに集まった4人に、リーダーはいない。役割分担もない。週に一度ゼミがあり、記事を書いた人がそこで発表する。更新頻度のノルマもなく、アップロードは先生が担当する。ゆるやかだけど、確かに動いている。腸感冒はそんなサイトだ。

 

面白いってなんだろう

腸感冒には「必要以上にふざけることを求められています」と書いてある。実際、先生からは「バズりたい」「面白いものを書いてほしい」という要望が頻繁に出るという。だが「面白いことを書く」というのは、言葉で言うほど簡単ではない。

 

── 面白いことって、これ面白いでしょ?って言って書くのって結構勇気がいりませんか。私は面白いと思ってるけど、果たして人は面白いと思うのか?みたいな。

松本:最初はやっぱり、自分が思っている面白いことが本当にみんなの心に刺さるのかな?っていうのはあって、結構不安があったんですけど。一番最初に書いた記事が「夜の鳥大で50m走したら転んで知らん人と目があった話」なんですけど、友達が「割と面白い」って言ってくれたので、「こういうこと書いていったらいいんだ」っていうのがわかった気がします。

深田:私が一番最初に書いたのは「鳥取女子も一人旅してみたい!」っていう記事で、みんなでネタ発表した時に50メートル走とかいうのを見て、「なんか私ちょっとテイスト違ったかな」って自分の面白さに不安が……。そこから、自分が日常で「え、なんで?」って思ったこととか、こういう機会がないとやらないだろうなってことを記事にしていくようになりました。

── 「QRコードは手書きでも読み取れるのか」など、深田さんの記事は疑問に思ったことをとことん検証するスタイルですごいです。

中林:デイリーポータルZとか、そういうちょっとしょうもないことで頑張ってみるサイトが好きで結構見てきたので、「私得意なんじゃないかな」と思って。書ける自信がなぜかある、みたいな感じで入ったけど、いざやろうと思ったら、何をしようと考えても「これ面白くないかも」「面白いってなんだろう」みたいになっていて。記事になったものは試行錯誤の結果いろいろ出てきたものという感じですね。

せっかくなので50m走ってもらいました

それぞれが試行錯誤しながら、少しずつ自分なりのスタイルをつかんでいったのがわかるエピソードの数々。印象に残っている記事を聞くと、それぞれの「苦労した記憶」が出てきた。

 

中林:「牛骨ラーメンのキーホルダーを自分で作る」みたいな記事(「“しあがってる”の向こうへ。牛骨ラーメンくん製作記」)。プラバンがうまくいかなくて、ずっと思い通りにいかない。記事に出してないんですけど、記事になったものの前段階に3体ぐらい失敗してて。多分私の記事の中で一番時間がかかっています。

戸田:「カニのぬいぐるみを家から出した」記事(「かにぬいの外出」)。一番恥ずかしいなって思いながら制作した記事ですね。ぬいぐるみ持って歩いてる様子を定期的に写真撮るのを、一日がかりでやったんで時間かかったなっていう記憶があります。

松本:「夜の鳥取砂丘でマイムマイムを踊った」やつ(「どきどき夜の鳥取砂丘」)。夜だったんですけど人が何人かいて、注目を浴びてしまって。いつも鳥取大学でやっているんでそれは「鳥大生だな」って感じなんですけど、本当に知らない一般の方だったので…ちょっと頑張ったなっていうのはあります。

 

労力をかけた記事、恥ずかしい思いをした記事、失敗を重ねた記事──そういうものが「印象に残っている記事」として挙がってくる。書くことが、ただの記録ではなく、体験そのものになっていることがわかる。

書かなくていいなら、深くは考えない

4人はいつまで腸感冒を書くのか。慣例として、下の学年のゼミ生が入ってきたら交代になるという。つまり、腸感冒ライターとしての日々は、そう長くない。

 

── これが終わったらみんな腸感冒ロスになるんですかね?

深田:実際に記事を書くにあたって、やっぱり普段の疑問とか、自分の中でどうなんだろうって思ってたことを、記事にするからっていう名目で自分の手で検証とかできる。それが面白いなと思ってるので。卒業なりして書く機会がなくなったら、ちょっと寂しいのかなとは思います。多分なんかネタが浮かんでも、わざわざ自分からやらないので、ちょっと残念かもしれないです。

松本:記事を書くっていうのがあるからこそ、企画をやってるっていうのもあるんで、やっぱり書く機会がなくなったら「どうでもいいこと」できなくなるから、ちょっと寂しくなるなっていうのはあります。

── どうでもいいことができなくなる、ってすごいコメントです。

戸田:日常に何か面白いことがあるかなって探してるんで、そういうことがなくなって、ただまた何も考えない生活が多分続くんだろうなって思うと、自分もちょっと寂しくなるかなと思います。

── 探したらいいじゃないですか。

戸田:いや、探しても書かなくていいから、多分深くは考えないんだろうなって思います。

「探しても書かなくていいから、深くは考えない」──この一言が、このサイトを貫く何かを言い当てているように思える。

書くという行為は、日常の出来事に「これは何だろう」「試してみよう」という一歩を踏み出させる。失敗してもそれが記事になる。恥ずかしくても、それが記録になる。腸感冒は鳥取の魅力を外に発信するサイトとして作られたが、実はそれ以上に、書き手たちの日常の解像度を上げる装置として機能していたのかもしれない。

記事を通してお互いの人柄を発見していった、という話も印象的だった。

 

中林:私は松本さんとは普段から一緒にいるんですけど、深田さんと戸田さんはたまに授業で会うぐらいだったので、普段は「めっちゃ真面目に授業受けてるな」くらいのイメージだったんですね。だけど記事を通してみたら、「あ、こんなことも考えてるのかな?」みたいな、案外そのずっと真面目なわけでもないしみたいな、結構いろんなことを考えてこういうことするんだ、こういうこと思うんだみたいなのが発見できるみたいな、一年で思いました。

深田:記事通してこんなに面白い子だったんだっていうことを知れて、毎回結構ゼミが楽しみになりました。

 

バズることを目指しながら、気がつけばゼミ生同士をつなぎ、日常を豊かにしていたらしい「腸感冒」。小笠原先生の「バズりたい」という野望はまだ道半ばかもしれないが、4人にとってこのサイトが残したものは、数字では測れないところにあるのかもしれない。

わたし|ワンダー編集部 / wonder-editor

この記事は、「わたし|ワンダーWONDER」編集部が制作しました。

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