2023.4.1

なぜあなたはあなたなのですか?

大野颯馬
なぜあなたはあなたなのですか?

CAMPUS WONDERいつものキャンパスで出会える
ワンダーなこと

大学の授業の一環で、在日外国人の生活環境についての地域調査をおこなった大野颯馬さん。調査を進めるうち、対象に目を向けるほどに見えてくる自身の姿に気づき始めます。学問的成果だけではない、地域調査が大野さんにもたらしたものをまとめてくれました。

 

鳥取大学地域学部では2年生の1年間、地域調査プロジェクトという授業を取ることになってます。学生はそれぞれの先生と共に1年間の調査を行うのですが、私は呉永鎬先生のもとで学ばせていただきました。私は「在日外国人にとっての地域/地域にとっての在日外国人」というテーマのもとで、4校の朝鮮学校と学生美術展へ現地調査に行きました。これらの現地調査や事前学習、現地の方々から伺ったお話から学びを得ることができました。ここでは、私が地域調査を通して得た「考え方」とそこから何が見えるのかについて書いていこうと思います。

何を学べばいいんだろう

本当に恥ずかしいことですが、私は大学で呉先生と出会うまで、朝鮮学校という存在を知らないでいました。もっと言えば在日朝鮮人という存在に目や頭、心を向けないで生きてきました。それは無意識下でのことです。私の中にいたのは、「文字としての」在日朝鮮人でした。呉先生と出会い、「彼らとしての」在日朝鮮人や朝鮮学校について学んでいく中で、朝鮮学校というイメージを膨らませていました。
そんな私が初めて朝鮮学校として京都初級朝鮮学校を訪れたのは6月の終わりのことでした。私はそこでとても不思議な感覚に襲われました。

「私はここから何を学び取ればいいのか」

京都初級朝鮮学校は養護教諭のいる保健室があります。これを聞いてあなたはどう思うでしょうか。おそらく「?」ですよね。実は朝鮮学校は国の基準では「学校」ではありません。そのため、学校保健安全法が適用されず、また学校運営のお金も補償されません。それを事前学習で知っていた私は、朝鮮学校に対して、私の通ってきたこれまでの学校とは全く異なるものを想像していたのです。それが蓋を開けてみると、とてもきれいな校舎で、保健室もありました。私の通ってきた学校と違うのは言語だけでした。もちろん多くの朝鮮学校はもともと持っていたイメージの通りだと考えられます。しかしたまたま最初に訪れた京都初級朝鮮学校は、建て替えられたばかりのものでした。そのような状況の中で、私は何を感じ取ればいいのかわからなくなってしまいました。

窓ガラス越しの世界

ひどく困惑しながら調査を進める私は、呉先生から「相手の方や感じとった事柄に映る(反射する)私自身を見る」ということの大切さを伝えられました。当たり前のようなことですが、それでも私にとっては大事な学びでした。つまり、朝鮮学校と日本の学校との差異ばかりに目を向けず、より深いところに視点を移すということの大切さを言われたのです。

「あると思っていた差異はなぜ生じているのか」

「なぜ私には差異がないように見えているのか」

「そもそも学校とは何であるのか」

このような問いを持つことができた結果、私は私自身の持つマジョリティ性や偏見などに気付くことができました。私は地域調査として在日朝鮮人や朝鮮学校について学びました。しかし、そこから見えてきたのは私や私たちについてでした。私はなぜ在日朝鮮人や朝鮮学校を無意識のうちに頭や心から消し、目を向けないで生きていけるのか。私は本当に差別や偏見をしていないのか。
私にとって地域調査は、窓ガラスのようなものです。何も気にしていなければ外の景色が見えます。もちろんそこで見えるのは窓ガラスというフィルターを1枚通した世界です。そして調査対象は外の景色です。それは現実に確かに存在していますが、地域調査という窓があるから、はじめて見ようとした景色です。そして、変わりゆく外の景色を眺めていると、ふと窓ガラスに自分の顔が反射します。景色を本気で見ると窓ガラスを本気で見ることにつながり、最後には自分を本気で見ているのです。

なぜ私は私なのか

私たちは日々いろんな物事に向き合います。それは嫌でも逃れられません。では、私たちはヒトやモノ、コトに直面して何を得るのでしょうか。それは相対するものへの理解だけではないはずです。それを通して、自分自身の好きなものや嫌いなもののような、自分自身への理解を得るのです。

私の話をしましょう。私はいろんな経験をしています。慣れていることもあれば初めてのこともあります。悩みながら、挫折しながら、苦しみながら、努力しながら。私はそんな毎日が愛しくて仕方ありません。頑張れる日、積極的な日だけじゃなくてもいいじゃないですか。ただぼーっとする日があってもいいじゃないですか。私の見ている世界はすべてが正解である世界ではありません。だからこそいろんなことを経験するのです。というより、経験と思考が私の世界に色を足してくれるのです。そうやって描かれる絵を見ながら・見せながら私は愛しい時間を過ごしているのです。

あなたはなぜあなたなのですか?

あなたの抱えている絵はなんですか?

大野颯馬 / Souma Ohno
地域学部人間形成コース3年生。素敵な言葉や表現を探したり、作り出したりすること、あとはお酒と歌が大好きです。基本的に「人軸」で、オモシロイ人に会うためならわりとどこでも行っちゃいます。そんなテキトーかつ自由な毎日を送る僕だからこそ見える世界を書いていきたいです。

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