2023.4.1

「セルフココア屋台」「あなたの手あたためます屋台」…鳥取大学の「屋台部」って?

眞殿海
「セルフココア屋台」「あなたの手あたためます屋台」…鳥取大学の「屋台部」って?

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授業の一環でもサークルでもない不思議な活動体「屋台部」。鳥取大学の学生が代々屋台を引き継ぎ営む有志の集まりだ。いったい何をするの? その疑問に現役部員の眞殿海さんが答えます。

鳥取大学では、2011年から「屋台部」という団体が活動している。きむらとしろうじんじん(1)さんという「屋台」を用いたイベントを全国各地で開催している方が、2007年から鳥取でイベントを開催。それをきっかけに鳥取にも屋台という発想が持ち込まれ、当時じんじんさんのイベントでボランティアスタッフを担当していた鳥取大学の学生を中心に屋台部が発足された。そして2011年に開催された『トットリ式屋台楽宴プロジェクト』にて屋台部が始動し、現在もその活動を続けている(2)。


『トットリ式屋台楽宴プロジェクト』の様子(2020年11月23日)

屋台と聞いて思い浮かべるのは、お祭りのときに並ぶカステラやくじ引きなどの屋台だろうか。しかし屋台部の活動は、その一般的な屋台のイメージにおさまらない。例えば、2012年11月18日の特段と冷え込んだ日に、店主がお客さんの手を握ってあたためる「あなたの手あたためます屋台」。2014年10月26日には、店主が急用で参加できなくなったため代案で出店された、お客さん自身にココアを作って飲んでもらう店主不在の「セルフココア屋台」(3)。こんな風に、ただ「やりたい!」という部員たちの妄想を自由に体現するのが、この屋台部の特徴だ。そんな自由な屋台の1つとして、私は昨年、初めて屋台を出店することになった。

2021年11月14日。夏がすっかり身を潜め肌寒く感じ始めた頃、『いなば用瀬宿横丁さんぽ市 next × トットリ式屋台楽宴プロジェクト』が、用瀬の「流しびなの里」のそばで開催された。2014年から屋台部と共同で行われているこのイベントに、私は3年連続スタッフとして参加させていただくことになるのだが、出店者としては初の参加になる。メンバーは私と、以前から参加したいと話していた同期の2人で、七輪で火を焚くこと以外は何も決めずに当日を迎えた。

会場に到着すると、すでに来場しているお客さんがちらほら見られた。じんじんさんの野点屋台を中心に、ジビエ肉を使った料理の屋台や、投げ銭方式でカレーを提供する屋台など、設営を終えた一般参加のお店から様々な音やにおいが流れてくる。その側には屋台部の部長が出店する焼き芋屋台もあり、すでにお客さんからいくつか注文を受けている。今回屋台部が出店するのは、部長の「焼き芋屋台」と我々の屋台の2店である。

設営を始めて間もなく、店の名前を考えていなかったことに気がつく。何をするか決めていない上に屋台の名前すら考えていない。そんないい加減な様子から、もう1人のメンバーが「きまぐれ屋台」という名前を思いつき、他に案も浮かばないので採用した。何か持ってきて貰えば七輪で焼き、撮影やマッサージもでき、お客さんの武勇伝も聞く、気分次第でなんでもする屋台である。料金は、計算や釣銭の受け渡しなど、もろもろの作業が面倒なので無料にした。

山と川に挟まれ、風を遮るものもろくにない吹きっさらしの会場では、太陽が照りつける当日の気候でも肌寒く感じた。だからこそ、七輪の中で赤々と燃える炎と炭のパチッと爆ぜる音は、通りがかるお客さんの意識をよく吸い寄せていた。それでも私は、することを当日に決めるようないい加減なこの屋台が、お客さんに受け入れてもらえるのか不安を抱いていた。しかし、そんな不安は杞憂だった。

ウィンナーとチーズ、パンを持参して焼きに来られた2人組の男女。小説で見たからやってみたいと、大福を炙りに来られた男性。店の前のベンチで喋りながら、店を見守り続けてくれた眼鏡の男性と2人組の女子中学生。マシュマロを焼きに来た子供達。ウィンナーとマシュマロしか焼いていない私達を見かねて、イノシシ、アナグマ、クマの肉を提供してくださった、秋田犬を連れた猟師のおじいさん。そのジビエ肉を焼くたびに来店された小柄なおじさん。鍼灸師の勉強をしており、私たちの脈を診てくださったサングラスのお兄さん。中には、ただゴミを燃やしに来るお客さんもいたし、写真を撮るだけの人もいた。

性別も年齢もこの屋台に来た理由もばらばらで、だけど屋台を去っていくときには、皆同じように笑顔で「頑張ってね」と声をかけてくれた。理由も目的もないうえに、準備もほとんど当日に行い、店名に至っては考えることも忘れていた。そんないい加減な店でも受け入れてもらえたことが、私は嬉しくてたまらなかった。

日が沈み始めたころ、3人ほどの子供が「にがおえ」と書かれた段ボールの看板を掲げ、「投げ銭でにがおえかきまーす!」と声を張り上げ走り回っていた。自分達でも屋台を出したくなったのか、子供達が勝手に店を開いたようだ。しかし、周囲の人々が子供達を止めることは無く、むしろ似顔絵を描いてもらおうと並ぶ人まで現れた。子供たちの「やりたい」を受け入れてもらえる空間が、そこにはあったのだ。

日常の中であらゆるものに理由や目的が求められ、それらが定まっていない物事は、どこか軽視されているように感じる。実際、私も屋台部の話をすると「やる意味ないじゃん」と笑われたことがあるし、にがおえの店を始めた子供達は、他の子供達からなぜそんなことをするのかと馬鹿にされたという。理由や目的を重視することも大切だが、まず「やりたい!」をやってみることも同じくらい大切なのではないだろうか。

目的や理由に縛られてどこか生きづらく感じていた世の中に、屋台部の活動や子供達のにがおえの店のような「やりたい!」を、遮らずに受け入れてくれる空間がそこにはあった。目的も理由もない、そんなきまぐれな在り方を許してくれるような空間があると思えば、どこか生きづらいこの世の中も案外捨てたもんじゃないなと、そう思えた。

 

脚注
1.1967年新潟生まれ。大学で陶芸を学び、1995年からその場で絵付けをし、焼いた茶碗でお茶を飲むことができる野点を始める。2007年に『きむらとしろうじんじん2007「野点」in秋のとっとり』が鳥取市で開催。以降、鳥取各地で頻繁に活動を行う。現在では、国内外問わず100カ所以上の場所で活動している。
2.および3. 参考文献:井上友弥著『「楽しさ」から地域を捉えなおす―鳥取市における屋台部の取り組みから―』2016年度鳥取大学地域学部卒業論文

 

眞殿 海 / Kai Madono
兵庫県姫路市出身。1999年8月23日生まれの見た目に似合わずおとめ座な男。鳥取大学地域学部地域創造コース4年生、社会学(生活論)を専攻。屋台部所属。動物と子供好き。最近の悩みは正月太り。

屋台部
鳥取大学で2011年から活動する非公式サークル。『トットリ式屋台楽宴プロジェクト』をきっかけに活動しており、県内外での出店を続けてきた。

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