2024.11.3
ここから遠いあの場所は、本当に遠いのか?
特集
鳥取大学の海外フィールド演習で初めて海外を訪れた平石結惟さん。ハワイ現地での学びを通じて当初のイメージと現実の違いを実感しながら、平石さんの「地域」に対する視点がどのように変化したか、自身の大学生活にどう影響しているかを振り返ります。
初めての海外。
日本から出たことのなかった私が、初めて訪れた海外はハワイである。
大学2年生の春休みに鳥取大学の海外フィールド演習に参加した。この授業は、数ヶ月の事前学習と、1週間ほどの現地調査で構成されている。海外フィールド演習でハワイに行くと言うと「いいな、観光に行くんだよね?」「遊びに行くんか」といった言葉が返ってくる。「ハワイ」というだけで、海がきれいで、楽しい観光地というイメージが脳内に流れてくるらしい。実際に、海外フィールド演習の説明会に参加し、今年の研修場所はハワイと聞いた私も、思わず心の中で「おお!」と嬉しい悲鳴をあげてしまったほどである。
ハワイの歴史と、「ネイティブブックス」との出会い
そんな風にハワイに対して前向きなイメージしかないまま海外フィールド演習への参加を決めた私は、現地に行く前の事前学習で多くの衝撃を受ける。
現在、ハワイはアメリカの一部となっているが、もともとハワイを統治していたハワイ王国があり、またそのハワイ王国自体ももともとは様々な戦いの末に生まれたものであったこと。さらに多くの日本人移民を含め、移民の存在がハワイにとっては重要で、そのために人種の多様性のある土地となったことなど、「楽園」というイメージからは結びつかないような複雑な歴史や特徴を知ることができた。そして同時にそれは、私が一方的なイメージを持っていただけであるということを考えるきっかけにもなった。
そして春休み、私たちは飛行機を乗り継いでハワイに到着した。
空港内では英語が飛び交い、さっそく海外に来たという実感が湧いた。ハワイに着いた翌日からいよいよ本格的な現地研修が始まった。
実際の現地調査では、事前学習で学んだことに関する場所に行き、現地で話を聞くなどして学びを深めた。文献という二次的な情報ではない、実際のこととして身に迫ってくるような経験をすることができた。
特に、私が印象に残った場所が「ネイティブブックス」というハワイの書店である。ここはただの書店ではなく、ハワイの文化を伝え、守ることを目的とした場所だ。「ハワイの先住民は文字が読めない、ハワイには文学があまりない」という偏見があると店主が感じていたのをきっかけに、ハワイ語で書かれた作品や、ハワイで生まれたアジア系作家たちの文学作品を通して、ハワイの文化や良い本を多くの人に届けようとしていた。
「ネイティブブックス」を訪れたのはハワイに着いてから4日目ということもあり、慣れない海外滞在ながらも少し心に余裕が生まれていたため、私はお店の方に質問をすることができた。
「ネイティブブックスにはどのような人が訪れるのですか?」
あまり大それた質問ではなかったが、この質問に対して笑顔で、
「地元の人々や、観光客の人々がハワイの歴史を知るために訪れます」
と答えてくださり理解が深まったこともあって、ネイティブブックスは私のハワイの好きな場所となった。
ここでは、ハワイ王国最後の女王となったリリウオカラ二女王が作ったキルトがまとめられた本を購入した。この直前、リリウオカラ二女王が使用していたイオラニ宮殿を訪れ、ハワイ王国の歴史を学んでいたため、ネイティブブックスでこの本を見つけたときは縁のようなものを感じたためだ。リリウオカラニ女王はハワイ王国を復活させようとした反逆罪のためにイオラニ宮殿に幽閉された。宮殿には、幽閉されていた部屋、そこで女王が作っていたキルトも紹介されており、実物と向き合うと、心に迫ってくるものがあった。購入した本の中にも多くのキルトが紹介されており、キルトに込められた意味を考察することができた。
異なる地域、共通する営み
冒頭にも記したように、今回の海外フィールド演習は私にとって初めての海外であった。もともと私の母がイギリスやインドネシアで数か月間過ごし、そのときの思い出をよく話してくれていたこともあって、私も海外に行きたいという思いがあった。高校生のときにも留学をしたいと考えていたが、新型コロナウイルスによって断念した経験がある。また、私が所属する地域学部の国際地域文化コースでは、世界の文化や考え方を知る機会が多く、それらを身を持って感じたいという気持ちを持っていた。そのため、今回の海外フィールド演習は私にとって、待ちに待った機会であった。
今回の研修で、私は海外への認識が変わった。私たちは、「日本」や「海外」などと異なる地域であることを、決められた枠のように考えすぎなくてもよいのではないかということである。
もちろん、その国によって文化や考え方の傾向は異なるが、その違いはあくまで地域の違いに過ぎない、とも言える。例えば、同じ日本でも鳥取県と東京都でも異なっている部分がある一方で、そこまで変わらない部分があると思う。同じように、例えば鳥取県とハワイという異なる地域でも、あくまで同じで、少しの相違点があるだけではないか(もちろん、その相違点も重要なことではある)。そう考えるようになった。
ネイティブブックスがあったチャイナタウンの中には広々とした公園があり、それは鳥取の落ち着いた感じと少し似ているなと感じる。また、イオラニ宮殿で毎週金曜日に行われているロイヤルハワイアンバンドのコンサートは、私にとっては異国のメロディでありながらも、音楽を楽しむという意味で、これは日本で暮らす私の普段の暮らしにも共通する営みである。
はじめは、海外に行くことは異世界の地に足を踏み入れるような感覚であったが、今では海外も日本、また鳥取県と続く場所でしかなく、私にとってその距離が一歩近づいたような感覚がある。
海外フィールド演習に参加した様子を、国際地域文化コースの1年生に授業の中で話す機会や、オープンキャンパスの中で高校生に話す機会があったことも重要な経験となった。多くの人の前で、自身の体験を話す経験もあまりなく、ある種の勇気と達成感を感じることができた。また、話を聞いてくれる後輩たちの顔がキラキラとした表情であったことも印象に残った。話したことで、少しでも役に立つことができていればいいのだが…。
海外フィールド演習をはじめ、鳥取大学での学びはいずれも私の行動、私がやりたいことに影響を与えている。現在、私は視覚メディアを活かした表現について模索している。それは海外への関心とは異なるかもしれないが、気になったテーマをより掘り下げて表現できるように頑張りたいと考えている。
私の現在地から遠いと感じていた場所に実際に訪れることによって、もしかしたら遠くはないのかもしれないと思うようになった。
遠いと感じているたくさんのことも、私の現在地に案外近いところにあるような気がする。
平石結惟 / Yui Hiraishi
鳥取市出身。鳥取大学地域学部国際地域文化コース2022年度入学。放送部に所属しており、入学式の進行をしたことが思い出。また、アイドルが好きで、好きなグループゆかりの場所であったことも、海外フィールド演習の場所がハワイと聞いて嬉しかった理由の一つ。
*この記事は、「海外フィールド演習北米プログラム」(中朋美先生、アレクサンダー・ギンナン先生、2023年度)にかかる学びを基にしています。