2026.1.8
作り手になるってどういうこと?イラストレーター 湖海すずさんインタビュー

特集
鳥取大学の平石結惟さんによる「作り手インタビュー」。ゲストは、イラストレーターの湖海(こかい)すずさん。中学時代の出会いや大学での転機、作品に込めた思いを語っていただきました。絵を描き続ける力の源や“作り手”としての姿勢が伝わるお話です。
小さい頃に物語を考えるのが好きだった私。あの時のように今、もう一度何かを作ってみたい。そう考えた私は、現在作り手として活動している人にインタビューをしたいと考えた。
作り手の人がどのようなことを見て、どのようなことを考えているのか。そのことを共有してもらい、作るためのヒントを伺ってみたい。
そして、私自身も伺った話をもとに様々な形のインタビューの文章表現にも挑戦していきたいと思う。
今回お話を聞いたのは、以前から親交のあるイラストレーターの湖海すずさん。私の指導教員でもある、鳥取大学地域学部の佐々木友輔先生を介して知り合った、優しいお姉さん的存在の湖海さんに、作り手としての色々なことについて聞いてみた。
少し緊張していた私だったが、物腰柔らかに優しく笑いかけてくれる湖海さんに助けられ、ボイスメモの録音をスタートさせる。7月某日の午後2時。インタビューを始めた。
ファンアートからオリジナル作品へ
湖海さんは、鳥取を拠点に活動するイラストレーターである。イラスト制作はもちろん、鳥取アートフリマという一次創作のみの同人即売会イベントへの出店などの活動を行っている。可愛らしいヒロインチックな少女からセクシーな女性像、また少し寂しそうな少年少女まで様々な人物を描く湖海さん。そのこだわりは人物だけでなく、衣装や小物など全ての要素の一つ一つを見つめていたくなるような作品ばかりだ。見る者を一瞬で虜にするようなイラストの反面、一貫したテーマとともに見え隠れする複雑な要素は、何度も見つめるうちにやっと浮かび上がってくるようにも感じる。
鳥取を拠点とした活動のきっかけは、鳥取大学地域学部の教員である佐々木友輔先生のnoteの連載「ミュージックビデオの身体論」シリーズのヘッダー画像制作であった。佐々木先生と以前から知り合いだったということもあって生まれた、このイラスト制作は、湖海さんにとって、それまで主に取り組んでいたファンアートとは違う自分を見せる機会になった。

「ミュージックビデオの身体論⑤ ダンスそのものを映し出すーマイケル・ジャクソンの革命」のヘッダーイラスト
このヘッダーイラストでは、本編で論じられていることや、例示されているミュージックビデオのモチーフが散りばめられている。内容を読んでからヘッダーイラストを見ると内容とイラストのモチーフがリンクし、私も見るたびに楽しい発見がある。湖海さんがイラストを描く際に重きを置いているのが、「要素を描き出すこと」だという。
「色んな観点を切り替えて見るのが大事で、モチーフとして何が出てくるか、人物に着目して何か気づくことはあるか、背景はどういう感じか、時代背景はどうか、色彩はどうか、とか。そういう観点を切り替えることで色々なことが見えてくると思っています。」
「ミュージックビデオの身体論」で特に重要な作品の中で登場するキャラクターや、モチーフの要素を書き出し、それらを組み合わせていく。最初の作品となる「ミュージックビデオの身体論⑤ ダンスそのものを映し出すーマイケル・ジャクソンの革命」のイラストでは、マイケル・ジャクソンの『スリラー』をイメージした四角形の箱を持っている少女は、Siaの『シャンデリア』に登場する少女がモチーフとなっている。毎回佐々木先生から内容を聞いてイラストを考えるというが、対象を咀嚼して出力する技を持つ湖海さんのイラストは、細かいところまで注目して見たくなる。
対象を咀嚼するために、対象をどう見つめているのか。これまで湖海さんが見つめてきたものを、湖海さんのこれまでから解き明かしたいと思った。

ヘッダーイラストのラフ
自分にも何かを好きだと思える気持ちがある
幼少期はとても大人しい子どもだったという湖海さん。保育園の頃から絵を描くのが好きだったというが、もう一つハマっていた遊びがダンゴムシを捕まえることだったそう。
「中遊びが好きで、外遊びは好きじゃなかったです。でも、みんなで外遊びをしないといけないときとかあるじゃないですか。だから、園庭にある木とフェンスの間に潜り込んで、ダンゴムシを捕まえてました。その空間は屋根と壁があるようなもので、だからほぼ中遊びみたいな感じだったんですね。」
なるほど、嫌いな世界の中に好きな世界を見つけていたようだ。この発想の転換が、今の自由な作品作りにつながっているのかもしれない。
中学生の頃。湖海さんはこの時期に、推しと呼べる存在や、好きな作家、漫画など、たくさんの「好きなもの」に出会った。それらについて積極的に友達に話すようになった。実生活の中で影響を受けたという中学時代の友達のひとりは、絵や漫画、小説、動画制作など、パワフルに創作活動をしていたという。湖海さんはその友達に憧れて本格的に絵を描くようになる。ファンアートをこの頃から描き始め、イラストの投稿も行った。
「私は小さい頃、自分の気持ちがわからずからっぽな人間のような気がしていました。でも、中学の友達にオタク文化について教えてもらい、好きなものができて、自分にも何かを好きだと思える気持ちがあると知りました。そこでようやく人生が始まった感じがします。」
好きなものを好きなだけ語り、自分が思ったまま絵を描く。そうしていると、意志のある一人の人間として生きている実感を持つことができ、安心したという。湖海さんが絵を描き続けられているのも、中学生時代に出会ったこれらの存在の影響が大きいようだ。

中高生のときに授業の合間に描き続けていた絵。勉強のカモフラージュのために英単語も書かれている
好きなことを見つけ、現在にいたるまで創作活動に邁進してきた湖海さんだが、その心の中では、絵を描くことへの認識に大きな変化もあった。多くの人に絵を評価される機会が増え、絵を描くことに前向きになれたのはここ最近のことだ。現在は、好きなことを伸び伸びと続けられているという。自身の日常が絵の制作に繋がることを意識している湖海さんは、描かなかった日には落ち込むほど、絵を描くことが重要な営みとなっている。
現在の作品制作につながっていると感じる習慣は、散歩をして景色を見たり、日常の中で見たものをメモすることだそうだ。
「例えば、春になってタンポポみたいな花がいっぱい咲いてる。あれって実はタンポポじゃなくて本当はタンポポモドキっていう花なんだけど…。それを見て『茎がすごい伸びてるのがいいな』とか『広い草原に黄色い花がいっぱいある絵ってかわいいな』とか。ふと思って明日には忘れてしまうようなことを書いておくっていうのをやってるかな。」
要素やモチーフを多用しつつもまとまりのある、それでいてしなやかな作風は、こういった「観察」や「記録」の習慣とつながっているのではないだろうか。私も、自分の経験や感じたことを文章にする機会を作り、そしてメモもたくさんするので、共通点があって、嬉しく感じた。
誰も見てないところで悲しんでいる人を描きたい
湖海さんが思う、自身が表れている作品は、挿絵入りの短編集『誰も知らない』。この作品は、湖海さんのイラストだけでなく、湖海さんが自身のこれまでを考えて綴った言葉も表現されている。湖海さんいわく、「自分の過去の、黒っぽく染められていた部分も表現された作品」なのだそう。
「黒歴史なんだけど、世に出さないとやってられなかったというか…ずっと悩まされていましたね。トラウマとかに」
今の自分と過去の自分を分離しないと「やってられなかった」。過去の自分を作品として昇華することで、今の自分と分離することができたのだという。

『誰も知らない』表紙
湖海さんは、このイラストを見た人から言われたことがある。それが、“純粋さ”と、“絵の外に汚い大人がいそう”という言葉だという。この言葉に対して、湖海さんは「本当にその通りだなって思って。」と続ける。
「オリジナル作品を描いているときは、誰も見てないところで悲しんでいる人たちとか、そういう事柄について描きたいっていう心理があるのかなって。」
中学生で自分の好きなものに出会い、創作活動を始めても、絵を描くことに対して前向きな気持ちになることに時間がかかった湖海さん。だからこそ、前向きな気持ちを持った上で、過去のトラウマと向き合うような作品を制作したのではないか。過去について感じるトラウマなど、きっと同じような思いや経験を抱えている人もいるだろう。
もしかすると、自身の絵や作品を通して、そこに表現された自分自身と対面しながら、自身と同じような経験を持つ人々の声を拾い上げているのかもしれない。
気楽に自由に作り手になってみて
これから、画集を出すこと、連作やアクリルスタンドの制作、またイベントへの出展など様々なことに挑戦したいと語る湖海さん。現在もイラスト制作の依頼や複数のプロジェクトが進行しており、さらには背景のブラッシュアップなど基礎力の強化にも力を入れようと常に自分自身の絵と向き合っている。
最後に、私を含め、作り手を目指す人にメッセージをもらった。
「作り手はどれだけ些細なものでも何かを作れば勝手に自称できます!
目指そうと意気込むと逆に難しいかもしれないので、友達と一緒に悪ふざけで何か作ってみるとか、好きなものの二次創作からはじめてみるとか、作るのが簡単なものを選ぶとか。とにかくハードルを下げるといいかもしれません。作るだけ作って公開しなくてもいいし、気楽に自由に作り手になってみてください。それでも難しければ締切を作って無理やりなんとかひねり出すのもおすすめです。」
“気楽に自由に”という言葉を噛み締めながら聞いていると、湖海さんが私の顔を見て言ってくれた。
「私でよければ力になりますので、何か相談事があればお気軽に声をかけてください!」
作り手インタビュー初回のゲストは、イラストレーターの湖海すずさん。
このインタビューを通して、作り手としての私の強い味方となってくれた。

*この記事は、鳥取大学地域学部国際地域文化コース佐々木友輔ゼミの活動を基にしています。
湖海すず / Suzu Kokai
鳥取を拠点に活動しているイラストレーター。2025年、佐々木友輔・杵島和泉監督の映画『ファントムライダーズ2』のメインビジュアルを担当。猫とハムスターが好き。

































