2025.6.10

大きくしない挑戦が、なぜ地域を元気にするの? 兵庫県豊岡市・竹野南地区コミュニティセンター・鶴原広美さん

浅井奏音
大きくしない挑戦が、なぜ地域を元気にするの? 兵庫県豊岡市・竹野南地区コミュニティセンター・鶴原広美さん

FEATURE特集

「大きくしない挑戦」が、地域を元気にする──兵庫県豊岡市・竹野南地区コミュニティセンターの地域マネージャー・鶴原広美さんに、同じ豊岡市の出身で鳥取大学地域学部に通う浅井奏音さんが、地域と生きるヒントを伺いました。

 

地域とともに生きるキーパーソンとの出会い

私が大学一年生だった2023年、鳥取大学地域学部の竹川俊夫先生の授業の一環で、兵庫県豊岡市竹野町の「NPO法人竹野南地区コミュニティわいわいみ・な・み」(以下わいわいみなみ)の方々を訪ねた。その際は、わいわいみなみの代表のお話を聞いたり、竹野南の住民の方が集まる場に参加したり、地域のキーパーソンへの取材を行った。その時にとてもお世話になったのが、わいわいみなみの活動拠点である、竹野南地区コミュニティセンターの地域マネージャー・鶴原広美さんだ。私は取材を進めるうち、この方が竹野南の一番のキーパーソンであり、地域の中で地域とともに生きている人なのだと気づいた。私がここで言う「地域の中で生きる」とは、単に「場所に住む」という意味ではない。そこに集う人々と関わり合い、支え合いながら、日々の暮らしを育てていく営みである。竹野南地区で活動する鶴原さんは、まさにその「地域とともに生きる」姿勢を、20年以上にわたり体現してきた人なのである。

鶴原さんは、但馬地域で20年以上地域福祉や地域づくりに携わってきた地域マネージャー。兵庫県香美町の出身で、社会福祉協議会でのボランティアコーディネーターを経て、現在はわいわいみなみを通じて、住民と一緒に地域の活動をつくりあげている。地域の高齢者が孤立しないように、誰もが自然と参加できる場を生み出し、若い人や外部の人も巻き込みながら、地域の繋がりを支えているのだ。

そんな鶴原さんに、2024年、私は改めて話を聞く機会を得た。

 

「小さな場」が紡ぐ温かなつながり

浅井:私たちが一年生のときに竹野南を訪れたことについて、地域の皆さんはどのように思っていたのでしょうか?

鶴原:君たちがかかわることで地域の人が、ちょっとこう…あの時は冬やったやん?どうしても家にこもりがちやん?…それが、誰かわからんけど来てくれて、わいわいしてくれて、さらに自分の孫・ひ孫くらいの年の子たちで。すごくうれしいやん。楽しんではったね、皆さん。

鶴原広美さん

竹野南地区コミュニティセンター

浅井:竹野南の皆さんは行事などに参加する人が多いですね。やっぱりわいわいみなみのコミュニティのおかげなのですか?

鶴原:コミュニティというか、おっきなイベントじゃなくても「ちっちゃな場」があれば結局住民さんが楽しめるから、そんなんでいいねん。すごく簡単なものがいい。住民の人は「この地域の中のつながりはありがたいな」って、うちのスタッフじゃないのに行ってくれる。業務じゃないし給料が出るわけでもないけど「こういうのが、わいわいみなみのええところやな」って住民の人が言うんです。ここのスタッフだけが何かをするんじゃなくて、地域全部を巻き込んで、みんなでやる。映画を観に来るのも一人の参加者やし、映画を映しにいくのも一人の参加者やし、地域の活動をみんなでつくるっていうのがやりやすい。なんとなくわかるやん?みんながそれぞれ何かしてくれるから、私も何かしてあげないとあかんなって。みんな、いい人。

浅井:わいわいみなみに来ている人の中には、「人が集まるところが苦手」という方もいたと思うんですけど、なぜそれでも集まってくるのでしょう?

鶴原:みんながみんな、みんなが自分たちのために何かをしてくれるとか、みんながやってるから自分も何かしてあげないとあかんとか、そういう感じではない。自然と、義務感ではなく、やってくれる。それは、この地域の雰囲気だよね。ここを知らない人は、「山の中で、過疎化で人が少なく、年寄りばっかりで、暗くて楽しくなさそう」ってイメージやん?でも、年寄りばっかりやけど、日常生活を楽しんでる。「田んぼ、しんどかってん」って、楽しそうに話す。どこにいるから楽しいとかじゃなくて、どこにいても楽しめるのが生活の幸せなのかなって。だって、何もないのに楽しんでるよね。地域のみんなもそういうのを求めてこの「わいわいみなみ」をつくってるから。「何かええことないかな?」の一言で、その何かを考える。ここはそういう、問題解決の場で、みんなが楽しめる場でもあるね。

筆者(写真手前)

浅井:わいわいみなみの活動はこの地域を活性化させていますね。

鶴原:さっきも言ったけど、あんまりおっきいことはしないよ。おっきなことじゃなくてちっちゃいことはやっていこうって。Give and Takeみたいな関係がこの地域の特徴やね。

 

地域に育てられ、恩返しを続ける

浅井:鶴原さん自身は地域の方をどう思っているのですか?

鶴原:できない私をここまで育てたのは地域の人たちやから。恩返しですよ。このへんの人たちはきっと「育てたつるちゃんが帰ってきたわ」くらいの気分。もともとは町外の子だから、この集落の村の名前もわからへんし「それどこ?」「それだれ?」ばっかりだったけど、ばあちゃんたちが「その村はここや。この村はこんなんや。ここではこんな人がおってこんなんするんや。あの人がこんなんしてくれるからあそこにいき」と全部教えてくれてくれた。そのおかげで今の私がある。みんながお父さんお母さんみたいな感じ。

鶴原さんは、どの質問をしても必ず竹野南の方々について話していた。常に「地域の人たちが喜んでくれること」「地域の人と一緒につくること」「小さなことを楽しむ力」などを大切にされており、深い愛情と信頼を持って地域に関わっている。

鶴原さんが目指しているのは、大きなプロジェクトで地域を活性化することではない。一緒にごはんを食べる月に一度の「よつばキッチン」「みそ汁カフェ」や、子どもたちが大人をもてなす「お子ちゃんカフェ」、健康ウォーキングなど、誰でも気軽に参加できる「ちっちゃな場」を増やしていくことだ。鶴原さんは「田舎って暗い、寂しい場所やと思われがちやけど、ここは違う」と言う。たとえ高齢化が進んでも、何もないところでも、日々の暮らしを「楽しもう」とする気持ちがあれば、地域はちゃんと生き生きとできる。

 

私が見つけた「地域で生きる」意味

取材を通して鶴原さんに触れ、私が最も心を動かされたのは、「できない私を育てたんは地域の人たちやから」という言葉である。その一言に、鶴原さんが単に“地域のために何かをしている人”ではなく、“地域に育てられた人”であるという実感が詰まっていた。

高校時代、私は地元の兵庫県豊岡市から鳥取県岩美町へ移り、寮生活を送っていた。岩美のまちは、地域の人々が日常的にお互いを気にかけ合い、名前を呼び合い、存在を自然に認識し合う関係性の中で成り立っていた。たとえば、毎日通っていた「ゆかむり温泉」では、「〇〇さん今日見ないね」「帰りに寄ってみようか」といった会話が日常的に交わされていた。その風景は、鶴原さんが語る竹野南の姿と重なるものであり、地域が人を育て、人が地域を支えるという循環を肌で感じた原体験である。

鶴原さんの言葉や行動には一貫して、地域を「支援の対象」としてではなく「共に暮らし、共に喜びをつくる対象」として見る視点がある。「みそ汁カフェ」や映画会など、小さな活動の一つひとつが、住民にとっての安心や楽しさにつながる場となっている。「大きなことをしない」「簡単なことでいい」と繰り返す鶴原さんの姿勢は、表面的な賑わいではなく、日々の暮らしの中で自然に生まれるつながりを大切にしている証だ。

私はこの取材を通じて、自身の体験と重ねながら「地域で生きる」ということの意味を改めて考えさせられた。人と人が顔を合わせ、言葉を交わし、名前を知り合う。そうした積み重ねの中にこそ、地域の豊かさや温かさがある。鶴原さんのように、場所に根を下ろしながら人と関わり続ける姿は、これからの自分がどこで、どのように生きていくかを考えるうえでも大きな示唆を与えてくれたと感じた。

「どこにいても、楽しむ気持ちがあれば幸せになれる」そう語る鶴原さんの言葉には、地域への愛と、そこに生きる人々への限りない敬意が込められている。鶴原さんの活動は、これからも竹野南の人たちとともに、静かに、力強く続いていく。

「NPO法人竹野南地区コミュニティわいわいみ・な・み」ホームページ
http://www.waiwaiminami.com/

*この記事は、鳥取大学地域学部地域創造コース1年次必修科目「基礎ゼミ」(竹川俊夫先生, 2023年度)でのインタビューを基にしています。

浅井奏音 / Kanade Asai

兵庫県豊岡市出身。鳥取大学地域学部地域創造コースに2023年度入学。小学校1年生から現在もバレーボールを続けており、高校から鳥取県へ。与えられた期待や課題に対して着実にこなすことを大切にしている。「個性を持つ人」に興味があり、個性から自分にはない考えや感覚を発見していきたい。

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