2023.4.1

鳥取駅前に新しいスペースをつくってる先生がいるって本当?

わたし|ワンダー編集部
鳥取駅前に新しいスペースをつくってる先生がいるって本当?

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さかのぼること2021年の終わり、「鳥取大学地域学部教授の村田周祐先生が、JR鳥取駅近くの物件を購入するらしい」との噂を聞きつけました。民藝館通りから路地に入ってすぐ、鳥取市瓦町にある古い建物。「先生、そんな古い建物は解体して、とうとう夢の新築マイホームですか!?」と思ったら、どうやらそういうことでもなく。2022年1月中旬、購入直後の物件を見学させてもらいました。

 

村田先生の購入した建物は古いものの、中に入るととても奥行きが広く、中庭や、遊廓の名残のような凝った意匠も所々に見られます。一時期は旅館としても使われていたと言います。

 

 

「超大変だったよ!この建物を買うの。70年前に建っているんだけど未登記、つまり違法建築だった。だから、売買するにもまず登記をし直さないといけない、と言われて。壊すだけなら200万円で終わるのに、登記し直して売買するだけで300万円かかった。絶対に新築の方が安いし、壊す方が簡単。こんなことをするのは僕だけ!」

 

 

 

 

豪快に笑いながら話す村田先生。大変だったと言うものの、何だかとても楽しそうです。それもそのはず、村田先生はこの建物の奥半分を住居としながら、手前半分は誰もが使えるパブリックスペースに改装するのだそう。

「イベントや展示、地域の行事など色々使ってもらえるようにしたくて。そして、最初のうちは使い方を決めすぎないでいたい。やっているうちに思いもよらない使い方を発見したいので、まずはどんどん使って欲しいんです」

もちろん、その中には鳥取の大学生たちが利用しやすいことも念頭に置かれています。

村田先生の物件は、鳥取民藝美術館、たくみ工芸店の向かいにある旧吉田医院の裏手にあります。これらはいずれも鳥取で民藝運動(1)を広めた医者・吉田璋也(2)のゆかりの地です。この辺りは元々「聚楽園(しゅうらくえん)」と呼ばれた遊廓のエリア。村田先生の物件もその中のひとつでした。

「遊廓のある地域の入り口には必ずお医者さんがいるんです。吉田璋也は鳥取の民藝プロデューサーであり耳鼻科の先生でもあった人として知られているけど、実はこの場所で遊女たちを診て、大切にしていた人でもあった。遊女というのは世間からは色々言われる立場だったけど、吉田璋也は『一生懸命やっているあなたたちは素晴らしい』と考えていたんです。それは、誰のものでもないけど地道な仕事の上に出来上がった鳥取の品々に、民藝を見出した目線と同じなんですよ。今は民藝の部分だけに光が当たっていますけど、僕はこっちが残ってもいいかなと思うんです」

現在、周辺​​には、アーティストの滞在・活動スペースとして知られる「ことめや」、鳥取のアートプロジェクト・HOSPITALEの拠点「旧横田医院」、街中での暮らしや働き方をテーマにするシェアオフィス・シェアハウス「マーチングビル」など、それぞれの特色を掲げながら街に開かれたスペースが複数存在します。ここはどのような場所になるのでしょうか?

(次回へ続く)

 

脚注
1.美術品や作家性の強い工芸品でない、実用性を重視した生活の道具とその歴史に美的な価値を見出す運動が、昭和初期に柳宗悦によって提唱され、全国に広まった。民藝とは「民衆的工藝品」の略。
2. 鳥取市出身の医師、民藝運動家。柳宗悦の民藝運動に共感して、鳥取から全国に民藝運動を広める活動を行なった。「民藝のプロデューサー」を自認し、牛ノ戸焼など鳥取の民藝品を見出すとともに、たくみ工藝店、鳥取民藝美術館などを設立。

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